はじめに


ご依頼された方が、その建築でどう過ごされたいか、そこを訪れる人にどう過ごしてもらいたいか、打合せを重ねるうちに、一緒に考え、導き出し、それを実現する空間、建築を一緒につくっていきたい、という想いで日々仕事をしております。

最近、素敵な建築写真家さん、Webデザイナーさんとお話する機会があり、仕事への取り組み方と共通する部分があることに気づきました。

Webデザイナーさんは、依頼者のWebサイトをデザインするときに、ただ見た目がきれいなサイトをつくるのではなく、その依頼者やお店等がどんな考えを持っていらっしゃるかを読み取り、それをサイトとして実現されるそうです。

同様に建築写真家さんも、ただ綺麗なシーンを切り取るのではなく、その建築がどういう考えでつくられているかを読み取り、その考えを表現した写真を撮影されるそうです。どんな建築でも、その方たちが撮影すれば綺麗に見えるのでは、と思ったりしたのですが、やはり、撮影したものに建築の質が現れるとのことでした。

どちらも、ただなんとなく見た感じ綺麗な仕事をするのではなく、依頼者がどのようなことを考えているか、大げさかもしれませんがどのような生き方をされているのかを映しこんだ仕事をしようとされていて、それは、私たちが設計をするときと共通していると感じました。

依頼者の方にも、どのような建築をつくるか、じっくり考える作業と、それを実現する作業を一緒に楽しんでいただければ幸いです。

気持ちよく過ごす

依頼者の方の想いを実現するために、どんな建築を目指せばいいでしょうか。私達ががお勧めするのはとてもシンプルな「気持ちよくすごせる建築」です。でもそれを実現するのはなかなかシンプルにいかず、難しいものです。

「気持ちよくすごせる」建築とはどういうものでしょう。それを見つけるのが設計の作業で、設計者の腕の見せ所でもあります。「気持ちよくすごせる」建築は、たくさんの要素が関係しあってできています。

要素の一つとして「機能性」---安全性を確保する構造耐力、空調・ガス・電気・給排水などの設備、断熱性能、遮音性能、遮音性能、採光、通風など----が適切に確保されていることがあげられます。

これらは、いわば、きちんと確保されていることが必要最低限の要素ですが、一番目に見えて分かりやすく、例えば住宅販売のパンフレットにも数値化した情報を載せられるので、これだけで比較してしまいがちです。

機能性に加え、もう一つの要素として、「空間の豊かさ」を挙げたいと思います。

「豊かな空間」ってどんなものか、なかなか定義しにくいですが、そこにいると嬉しくなったり、落ち着いたり、宗教施設なら崇高な気分になったり、人の心に影響を与えて感動させる空間といえるのではないでしょうか。どうすれば豊かな空間をつくれるのか、それは、どんな方が過ごされるのか、どういう場所に建つのか、どんな素材を使うのか、どんなプランニング、空間構成か、外部空間と内部空間の関係など様々な要素を検討しながら探していくことになります。私たちも日々豊かな空間を目指して格闘しています。

コンセプト

コンセプトとは、その建築をどのような考え方でつくるかを表したものです。「気持ちよく過ごす」で挙げたいろいろな要素も、しっかりとしたコンセプトができていればおのずと選択肢は決まってきます。なぜその素材、デザイン、性能等を選ぶのか、根拠になるものです。

コンセプトは施主と設計者でコンセンサスを取りながらつくっていきます。コンセプトをつくるときにはその人の知識や性格、倫理観などが反映されます。すばらしいコンセプトとはどんなものか、判断が難しいですが、例えばよくお役所の建物で「ABC村のAにちなんでAの形の建物にしました」というのは、お役所内や、いろんな場所で相手を納得させやすいので、よく見られますが、その建物がどうあるべきかの一部でしかないのではないでしょうか。

建築家の中には、時にはコンペにおいてでさえ、落選を承知で、設計条件として与えられたコンセプトに合わない、独自のコンセプトに基づいた案を出す人もいます。そうすることで、設計条件のコンセプトの是非を世間に問うているのだと思います。

コンセプトをつくるときに是非考えて頂きたいのは、建てる建築と周辺の関係です。「周りと全く関係なく、目立つデザインにする」というコンセプトもあり得ますが、成り立つ場合は限られてくると思います。なぜなら、建築はたとえ個人の所有物であっても、文房具や家電と違って、その地域の景観をつくり、街の空間を形成するという責任があるからです。

学生のときにマルセイユの建築専攻の学生が、教授同士が知り合いということで 大勢尋ねてきたことがありました。マルセイユの学生と、こちらの大学の学生が数人ずつ代表で自分の設計案を発表しました。そのとき驚いたのですが、日本の学生の設計案は全て、自分の計画する建物だけの表現だったのに対して、マルセイユの学生は、全て、街並みを全部描いて、その街の中での計画建築物の位置づけを説明していました。建築に対する考え方の違いがよく現れていました。

その場所に昔からある建築をそのまま建てたらいいと言うわけではないのですが、「アーリーアメリカン風」や「南欧風」、「北欧風」の建物を建てたいというご希望を聞くことがありますが、本当にその場所にそのスタイルがいいでしょうか。どんなスタイルでも、それができた土地で、気候や文化等に影響を受けながら洗練されてきたものです。それをそのまま脈絡のない場所に、ポンと置くことが相応しいでしょうか。また、都市の中でも、山の中でも、海のそばでも、いつも同じスタイルの「商品」のような住宅も、果たしてそれでいいのか、考えさせられます。

このページ全て撮影 笹の倉舎/笹倉洋平

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